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2013年4月26日 (金)

コンピュータと人間4

 
 それでは、もし数年後にコンピュータが名人と対等ないしはそれを凌ぐ戦いをするようになったときに、プロ将棋界はどうなっていくのでしょうか。そこで、一足先に人間のトッププレイヤーがコンピュータには勝てなくなったチェスの世界が参考になります。

 
 チェスの世界大会は相変わらず盛んに行われていて、多くのプレイヤーが楽しんでいます。森内名人や羽生三冠も、実は知る人ぞ知るチェスのプレイヤーで、「余暇」としてチェスを楽しんでいて、世界大会にもしばしば参加し好成績を残しています。私は、羽生さんがつくばに来られたときに「将棋を仕事として指してして、なぜ余暇にチェスを指すのですか。どこが楽しいのでしょうか」と質問したことがあります。羽生さんは「世界大会に行くと3日間指しっぱなしで、最後はグタっと疲れます。それがいいんです」と答えられました。正直よくわかりませんでした。仕事であれ余暇であれ、本当にボードゲームが好きなんだな、と思いました。

 
 ということで例えコンピュータの優位が確定した後でも、将棋はすたれない。相変わらずコアなファン、ないしはより多くのファンに支えられて今までどおり続けられるであろう、という楽観的な予想があります。これは電王戦を当初企画した故米長将棋連盟会長の意見でもあります。米長さんは「箱根駅伝のスポンサーには自動車会社も入っている。しかし、人間とクルマとの競争を誰も見たいとは思わない。人間同士が戦うからこそドラマがありおもしろいのだ」というご意見でした。

 
 一方で、将棋という競技の観戦のしかたが大きく変わってしまうだろう、という予想があります。今回の電王戦では、大盤解説の際にコンピュータによる評価関数が表示されました。これにより、しろうとの観客もコンピュータはそれぞれの手をどのように評価しているかを数字で見ることができました。プロによる解説と、コンピュータの評価とはしばしば食い違い、その違いがまた観客の興味を惹くという相乗効果がありました。

 
 しかし、コンピュータの優位が定着してしまうと、観客はプロによる解説よりはコンピュータの評価の数値を信じるようになります。チェスの試合では、コンピュータによって次の一手の評価関数が示され、観客はそれを参考にして実際に指された手の「答え合わせ」をするような観戦のしかたになっています。現在はスマホのアプリですら、トッププレイヤーを超えているので、スマホ片手に「答え合わせ」が可能なのです。このような観戦のしかたを嘆くチェスのオールド・ファンも多いのです。

 
 将棋の場合はどうでしょうか。従来のコアな(やや年配の)将棋ファンからは「将棋がおもしろくなくなった」という感想が増えるかもしれません。一方で、今回の対戦で裾野を広げつつある(おそらく若い)将棋ファンからは、そのような観戦の仕方がわかりやすい、と歓迎されるようにも思います。それはそのときが来てみないとわかりません。

 
 いずれにしろ、ここ数年は「人間対コンピュータ」のおもしろい対戦が続くはずです。その後、コンピュータの優位が確定したところで、将棋界はひとつの転機を迎えることだけは間違いないでしょう。

                                                                          (終)
 

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コメント

わかりやすいものは、必ずしもおもしろくなく、
逆におもしろくないもののようにさえ思いますが、
おもしろいものにはわかりやすさがどこか入って
いるように思いました。

力の入った4回にわたる解説、おもしろく、
かつ、わかりやすかったです。感謝。

投稿: 森井哲也 | 2013年4月27日 (土) 13時00分

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