« 第2回電王戦について | トップページ | コンピュータと人間 2 »

2013年4月21日 (日)

コンピュータと人間1

電王戦の最終局を見ていて、「ついにこの日が来てしまったか」という思いです。

1997年にIBMのスーパーコンピュータ「ディープブルー」が当時のチェスの世界チャンピョンであるカスパロフに勝利しました。このときも世界的なニュースになったのですが、将棋の場合、手持ちの駒を生かせるという特徴があるため、計算が桁違いに難しく、コンピュータがプロに勝つのは当分先きであろうと考えられていました。

しかし、今回の第2回電王戦において、コンピュータはプロ棋士に対して3勝1敗1引き分けという結果を残し、「圧勝」しました。圧勝と言ったのは、4月20日に行われた最終戦に登場したGPS将棋が、将棋界のトップ10に入る三浦九段に勝ったからです。しかも、その勝ち方は、コンピュータが後手にもかかわらず、先手の三浦九段の得意とする戦法で先手に何もさせなかったのです。コンピュータ側の王様は手つかず(王手がかからず、囲いも乱れていない)、三浦九段側は攻めをふせぎきれずに詰まされたのです。

三浦九段は将棋界に10人しかいないA級棋士で、これまでに棋聖のタイトルをとったこともありますし、名人戦に挑戦したこともあります。三浦九段以上の棋士となると、羽生、森内、渡辺の現在のタイトルホルダーくらいでしょう。そもそも東大駒場の690台のコンピュータをクラスタでつないだGPS将棋は、一秒間に2億5千万手も読むと言われています。それを聞いただけで人間側が勝てる気がしません。来年か再来年にはタイトルホルダーが出てくるだろうとは思いますが、コンピュータに勝ち越せるとは想像できないのです。

もちろんコンピュータにも欠点はあります。それは序盤の駒組みが上手でないことと、入玉戦に弱いことです。コンピュータといえど、読める手はせいぜい30手先です。プロは序盤の内でも、最終盤を意識して指すことがあります。例えば、端の歩をつくかどうかは、80手100手先にその効果がでてきます。さすがのコンピュータもそこまで読むことはできません(少なくともここ数年では)。

ですから、序盤の内に大量のリードを奪って、中終盤にのぞめばコンピュータに勝つ可能性は高いのです。現に、今回プロ棋士で唯一勝利した阿部光瑠四段は、「習甦」というコンピュータにこの作戦で勝利しました。

コンピュータのもうひとつの欠点は、相入玉戦です。相入玉戦とは、お互いの王様が敵の陣地に入り込んでしまって、詰ますことができない状態を言います。公式戦ではこの場合は、駒の点数を数えて勝敗を決めます。すなわち飛車、角の大駒が5点、その他を1点として計算して、合計24点に達しない方が負けです。双方が24点あれば「持将棋」といって引き分けになります。

コンピュータは過去の棋譜(プロの将棋の公式戦の記録)をデータベースとしてもっていて、それを参考に戦っているのですが、そもそもプロの試合で相入玉戦の事例が少なくデータが不足しているのです。さらに、相入玉となると将棋のルールそのものが変わります。すなわち敵の王様を詰ますのではなく、駒の点数を稼ぐようにプログラムを切り替えねばなりません。そのタイミングがとても難しいのです。
今回の電王戦でも、第4戦では塚田八段が、ほとんど負け戦であった試合を相入玉に持ち込んでかろうじて引き分けています。

今後コンピュータに勝とうとするならば、この2点で戦うしかありません。序盤で大量リードするか、相入玉に持ち込むか。しかし、トップ・プロほどそれが大変難しいのです。なぜなら、プロ棋士には「美学」があるからです。相入玉戦はいわば例外中の例外で、最初から目指すようなものではありません。プロは「棋譜」の美しさを大切にしています。結果的にそうなるのは仕方ないとしても、最初から泥仕合を目指すことはトップ・プロにはできないでしょう。

むしろ阿部四段のように、若手で失うものが少なく、かつコンピュータ将棋にも慣れているような世代の棋士の方が、コンピュータ棋戦で勝ちやすいように思われます。
ということで、来年ないし再来年に名人クラスの棋士がコンピュータ将棋と戦っても、それに勝ち越すことはかなり困難ではないのかと思われるのです。

|

« 第2回電王戦について | トップページ | コンピュータと人間 2 »

科学・インターネット」カテゴリの記事

芸能・スポーツ・将棋」カテゴリの記事

コメント

とてもよくわかるご説明で、
なんだそうなのか~と納得しました。
先々も見てみたいような、見たくないような
微妙さがあって面白いですね。

それにしてもマラソンなんかでも
自転車でも走ったら、人間に勝てそうな
感じがします。
その場合とは違う「人対コンピュータ」と
感じるところが、格別なんでしょうね。
人間の能力を機械によって延長するという
感じではなく、もはや「独立」してる感じ
ですね。

投稿: 森井哲也 | 2013年4月21日 (日) 15時59分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/557951/57217622

この記事へのトラックバック一覧です: コンピュータと人間1:

« 第2回電王戦について | トップページ | コンピュータと人間 2 »